映画 リミット 新作映画批評 シチュエーション・スリラーの傑作 アメリカを皮肉った生き埋め棺桶映画 ネタバレあり 

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評価が高いことは重々承知。しかし、群馬ではどこの映画館も上映してくれないので観れないのかなぁ、と思っていた映画『リミット』がブレビ伊勢崎2週間限定上映との報を聞きつけ、妻と一緒に観賞遠征。

起きたら口は猿轡、両手を縛られ棺桶の中。持ち物は携帯電話とライターという最悪シチュエーション脱出劇。期待にそぐわぬ完成度。

物語冒頭から数分間真っ暗な画面と息遣いだけが響き渡り、非日常の異様な光景が展開。劇場にいる観客も真っ暗闇の中。物語に集中させ主人公の置かれた状況を疑似体験させ演出が秀逸。。開始5分で、スゴイ映画と直感。

映画ジャンルで言えば、シチュエーション・スリラー。『ソウ』シリーズや『フォーン・ブース』などがある。それらと一線を画しているのは社会風刺的な毒気のあるブラック・ジョークを伏線にしているところ。

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あらすじ(ウィキペディア)

イラクでトラックの運転手をしているポール・コンロイがある日何者かに襲われ、気がつくと棺の中に入れられ、どこかに埋められていた。彼は手元にあるいくつかの道具を使って脱出を試みる。

狭い棺桶の中での携帯電話を使った会話劇で成り立っているため、物語全編に渡り登場する人物はライアン・レイノルズが演じる主人公ポール・コンロイただひとり。

彼の目線や顔の表情、様い棺の中での身体の隅々を用いた名演(熱演)なくしてこの映画は成り立たなかっただろう。

冒頭から真っ暗な地中に生き埋めにされた男ポール。棺には携帯電話とライター、薬、酒しかなく(中盤に犯人が意図的に残した電池の切れかかった懐中電灯、ナイフ、メモを発見)、これで約90分の上映時間。物語も映画の上映時間と共に進行していくので『24』のようにプチリアルタイム臨場感もある。

脚本が練られているので、最後の種明かしまで、よくココまで考えたなと言う事態が次々に出現。携帯電話を用いた会話劇の妙が面白い。何箇所か不幸を笑ったよ、笑うしかないじゃん。拉致された場所はイラクのバクーク。進行に伴い徐々に明らかになるが、民間企業CRT社のトラック運転手として働いていたポールは、何者か(テロ犯)に襲撃され仲間を殺され生き埋めにされてしまった。

国防省に助けを求めても、お役所仕事でたらい回しにされ、妻のリンダに電話すると留守番電話。犯人からは500万ドル(最終的には100万ドル)の身代金を時間内に要求され、状況は悪いまま。

誰を信じていいのか分からないマークは、かろうじて通話の出来たFBIのテロ対策専門員の話を同じ状況下に置かれた人物“マーク・ホワイト”を救った話を聞かされる。彼は、マーク・ホワイトって棺に落書きするほど藁をもつかむ気持ちで信じるが、これがラストシーンの大きな伏線になっているのでこの名前を要チェック。

酷使するので携帯電話の電池は徐々に減り、棺に出来ている穴から蛇が入ってきて命を脅かされるシーンは足をもぞもぞと蛇が這い恐い。

携帯をGPS逆探知して助けるどころか、アメリカ空軍はイラク空爆し生き埋めにされた棺が壊されるし、しびれを切らした犯人はCRT社の同僚女性を殺害した動画(脳天に向かって発砲)を送ってくるし、早く指を切断して動画を撮れ!とか常軌を逸した要求ばかり。脱出できるどころか状況は悪化していく。

終盤になり、死期を悟った主人公は介護センターにいる母親に電話するが母親は痴呆になり今にも命が消えそうな息子のことがわからない、せつない。またポールが命を賭けて働いていた民間企業CRT社はブラック企業。テロ犯に拉致されたポールを助けるどころか、自分たちは関与していないと会社の保身を優先しでっち上げた嘘(その嘘は殺されたCRT女性社員とポールに肉体関係があったというデタラメ。Fuck You!!)を口実にを強制解雇。最悪。

最後、ではポールは助かったのか?助からなかったのか?

答えは助かりません。衝撃的な結末でした。

空爆のおかげで棺を壊され身体まで砂に埋まってしまったポールに対して、もうすぐ救助してやると言い続けてきたあのFBIテロ対策員はポールと勘違いして“マーク・ホワイト”の墓を探し当てていたのです!!ポールはそのまま砂に埋もれてあの世行き〜。マーク・ホワイトは、助けたのではなかったのか?

ここの解釈がハッキリ説明されていないので推測するのが難しいが、前後の文脈を考えるとポールと同じ境遇で拉致された人物がマーク・ホワイトで、彼も救助を要請していたためにとっさに出された名前だったと考えられる。つまり、アメリカ政府の姿勢としてテロ犯と断固戦う姿勢を体面上崩せないため、イラクで拉致されたアメリカ人は誰も救助してもらえない、ということを皮肉をこめて描いていると解釈した。

地中に埋められているのに効率よく携帯電話がかかってきたり(理由の説明はあるにせよ)、都合よすぎる展開もないわけではない。それを差し引いても良くできた映画だと僕は思いました。

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[リミット] - goo 映画
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【関連リンク】
リミット公式サイト